家族信託と成年後見の違いは?判断能力と目的で選ぶ相談先

親の将来を考えて調べ始めても、似た言葉が多く、どの制度が家族に合うか迷いますよね。最初に親が契約内容を理解できる状態かを確認し、財産の管理・承継は家族信託、生活・介護契約を含む代理は任意後見、すでに判断能力が不十分なら法定後見を軸に専門家へ相談します。
目次
状況を整理する
この記事でわかること
- 判断能力の状態による三制度の分け方
- 家族信託と成年後見でできることの違い
- 法定後見と任意後見の申立先・手続き
- 初期費用と継続報酬の確認方法
いまの状況にいちばん近いのは?
結論 判断能力の状態から相談先を決める
家族信託と成年後見は、どちらかが一方的に優れている制度ではありません。契約できる時期と支援できる範囲が違います。最初の分岐は、親が契約内容を理解し、自分で意思を示せる状態かどうかです。
- 親の希望と困り事を聞く
実家の管理、預貯金の支払い、介護施設との契約、将来の承継など、備えたい場面を本人の言葉で整理します。 - 契約内容を理解できる状態か確認する
診断名や要介護度だけで決めず、日々の様子、医師の診断、専門家との面談を通じて意思能力を確認します。 - すでに支援が必要なら法定後見を相談する
判断能力が不十分で契約や財産管理に支障がある場合は、中核機関等で相談し、本人の住所地の家庭裁判所への申立てを検討します。 - 将来の代理を決めるなら任意後見を相談する
判断能力が十分な間に、任せる人と事務の範囲を決め、公証役場で任意後見契約を結びます。 - 特定財産の管理・承継なら家族信託を相談する
実家や賃貸不動産、金銭などを誰が何のために管理し、将来誰へ渡すかを弁護士・司法書士・税理士等と設計します。 - 不足する機能と費用を確認する
身上保護、取消権、信託外の財産、監督、税務、初期費用と継続費用を確認し、必要なら制度を組み合わせます。
親が契約内容を理解でき、財産管理と将来の承継を具体的に決めたいなら、家族信託が相談候補です。将来、介護サービスや施設入所などの契約も任せたいなら任意後見が候補になります。すでに一人で重要な契約を判断することが難しい場合は、法定後見を相談します。
ここでいう「判断能力の低下」は、物忘れがあるというだけではありません。その契約によって何を誰に託し、どのような結果になるかを理解できるかという個別判断です。家族だけで結論を出さず、医療・福祉の情報もそろえて法律専門家へつなぎます。
判断能力が低下しているときの分岐
家族信託は、一般に家族を受託者とする民事信託の呼び方です。本人である委託者と受託者が合意する契約なので、契約時の意思能力が必要です。金融庁の資料も、民事信託には契約締結能力が必要と整理しています。
親が信託契約の内容と結果を理解できる意思能力をすでに欠く場合、新たな家族信託契約はできません。子が代わりに本人の財産を信託する契約を結ぶこともできません。この段階では、法定後見の利用を軸に相談します。
ただし、認知症の診断、要介護認定、年齢だけで契約の可否が自動的に決まるわけではありません。軽い物忘れがあっても契約内容を理解できる場合がある一方、日常会話ができても複雑な信託設計を理解できない場合があります。
| 親の状態 | 最初に確認する内容 | 主な相談候補 |
|---|---|---|
| 契約内容を具体的に理解し、希望を説明できる | 管理したい財産、受託者、使い道、終了・承継の希望 | 家族信託、任意後見、必要に応じて併用 |
| 日常生活は送れるが、重要な契約を一人で決めることに不安がある | 何を理解できるか、同意・代理が必要な行為、本人の意向 | 補助または保佐。契約能力が残る可能性は個別確認 |
| 重要な財産行為の理解が難しく、支払い・契約に現実の支障がある | 診断書、本人情報シート、財産、生活上必要な支援 | 保佐または後見 |
| 虐待、財産流出、契約トラブルが疑われる | 本人の安全、通帳・契約書、支援者、緊急性 | 中核機関、地域包括支援センター、自治体、法律相談 |
契約を急いで形式だけ整えると、後に契約の有効性や受託者の権限をめぐる争いにつながります。面談では親本人が説明を受け、理解した内容を自分の言葉で話せるかを確認します。必要に応じて公正証書、医師の診断書、面談記録を検討しますが、書類を作れば意思能力の問題が解消するわけではありません。
目的から家族信託・任意後見・法定後見を比べる
判断能力が十分なうちは、制度名より「何を任せたいか」を先に決めます。成年後見の身上保護は、本人の意思や生活状況に配慮し、介護・福祉サービスや施設入所などの契約、費用の支払いを行う法律上の支援です。食事や入浴などの介護行為そのものを後見人が行う意味ではありません。
| 比較項目 | 家族信託 | 任意後見・法定後見 |
|---|---|---|
| 始める時期 | 契約内容を理解できる間に契約 | 任意後見は判断能力が十分な間に契約。法定後見は判断能力が不十分になった後 |
| 主な対象 | 契約で信託した金銭・不動産など | 本人の財産管理と、権限に含まれる生活・介護等の契約 |
| 財産の活用 | 信託目的と契約の範囲で管理・処分・承継を設計 | 本人の利益と保護を中心に管理。投機的な運用や家族のための贈与は難しい |
| 身上保護 | 対象外 | 介護サービス、施設、医療費支払いなどの法律行為に対応 |
| 本人の契約の取消し | できない | 法定後見では類型・権限に応じて取消しが可能。任意後見人に取消権はない |
| 監督 | 契約で信託監督人等を置けるが、家裁の恒常的監督はない | 法定後見は家庭裁判所が監督。任意後見は任意後見監督人が監督し家裁へ報告 |
| 死後の承継 | 次の受益者や残余財産の帰属先を設計できる | 原則として本人の死亡で終了。財産承継は遺言・相続で扱う |
実家を将来売却して親の施設費に充てたい場合、判断能力がある間に実家を信託財産とし、受託者へ売却権限を持たせる設計が候補になります。ただし、抵当権のある不動産、農地、金融機関の対応、譲渡所得税などは個別確認が必要です。
一方、施設入所契約や介護サービスの変更、信託していない預貯金の管理まで備えるなら、家族信託だけでは足りません。任意後見との併用を検討します。財産をどう動かすかは信託、本人の生活上の契約を誰が支えるかは後見、という切り分けが相談の出発点です。
医療行為への同意は、成年後見人に包括的な同意権が当然に与えられるものではありません。延命治療や手術の希望は、親が意思を示せる間に家族・医療者と話し、記録の残し方を別に検討します。
家族信託は三者と信託財産を具体化する
信託協会の説明では、信託は委託者・受託者・受益者の三者で構成されます。家族信託では、親が委託者と当初受益者を兼ね、子が受託者になる形がよく検討されます。ただし、家族構成と目的に応じて設計は変わります。
- 委託者: 財産を託し、信託の目的や受益者を決める人
- 受託者: 信託目的に従い、受益者のために財産を管理・処分する人
- 受益者: 信託財産から生じる利益を受ける人
- 信託財産: 契約によって受託者へ託す金銭、不動産など
たとえば「親の生活・介護費を支払うため、子が実家を管理し、必要になれば売却する」という目的を契約にします。実家の所有権は信託を原因として受託者名義に移しますが、受託者個人の財産とは分けて管理します。売却代金も信託財産として親のために使います。
設計時は、受託者ができる行為、修繕・賃貸・売却の条件、金銭の管理方法、帳簿と報告、受託者が動けなくなった場合の後継受託者、信託の変更・終了、親の死亡後の受益者や残余財産の帰属先まで確認します。
信託できるのは契約に入れた財産だけで、親名義のすべての財産が自動的に管理対象になるわけではありません。年金の受取口座、株式、保険、不動産などは、制度上信託できるかだけでなく、金融機関や契約先の実務対応も確認します。
家族信託は相続税を一律に軽減する仕組みではありません。委託者と受益者が異なる設計、受益権の移転、信託終了時の帰属によって課税関係が変わります。遺留分や相続人間の公平にも影響するため、法律面は弁護士・司法書士、登記は司法書士、税務は税理士など、必要な専門分野を含む体制で設計します。
法定後見と任意後見の手続きを確認する
法定後見は、本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助に分かれます。法務省の比較では、後見は判断能力を欠くのが通常の状態、保佐は著しく不十分、補助は不十分な人が対象です。実際の類型は診断書、本人情報シート、本人の状況などから家庭裁判所が判断します。
法定後見の申立て
申立先は、親の住所地を管轄する家庭裁判所です。本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長などが申し立てられます。申立書、親族関係図、財産目録、収支予定表、診断書、本人情報シートなどを準備し、裁判所の調査・審理を経て開始類型と後見人等が決まります。
候補者に家族を記載しても、その家族が選任されるとは限りません。本人の財産や必要な支援、親族間の意見、候補者との利害関係などにより、弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門職や法人、複数の後見人、監督人が選ばれる場合があります。申立て後は家庭裁判所の許可なく取り下げられません。
後見人等は、定期的に財産・収支や本人の生活状況を家庭裁判所へ報告します。本人の居住用不動産を売却する場合は、家庭裁判所の許可が必要です。制度を始める前に、毎年の報告や領収書の保管も含む継続的な手続きだと理解しておきます。
任意後見の契約と発効
任意後見は、本人の判断能力が十分な間に、任意後見人になる人と任せる事務を決め、公証役場で公正証書による契約を結びます。この契約は登記されます。契約しただけでは任意後見人の権限は始まりません。
本人の判断能力が不十分になった後、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者などが、本人の住所地の家庭裁判所へ任意後見監督人選任を申し立てます。監督人が選任された時から任意後見契約の効力が生じます。任意後見人は契約で定めた代理権の範囲で動き、監督人へ報告します。
任意後見は「誰に何を任せるか」を本人が決められますが、法定後見のような取消権はありません。消費者被害への備えや、判断能力が低下してから発効までの見守り方法も、公証人や専門家へ相談します。
費用は初期費用と継続費用に分ける
費用は、契約や申立てのときだけでなく、その後の報酬と管理事務まで比べます。公表資料の金額は全国一律の見積額ではありません。資料の対象と、金額が変わる条件を分けて確認します。
| 費用項目 | 公表資料から確認できる金額・構造 | 金額が変わる条件 |
|---|---|---|
| 法定後見の申立て | 裁判所の全国案内では申立手数料800円、登記手数料2,600円に加え、郵便料、診断書料、必要な場合の鑑定費用 | 保佐・補助で同意権・代理権を同時申立てするか、裁判所の郵便料、診断・鑑定の要否 |
| 法定後見人等の報酬 | 横浜家庭裁判所の令和7年4月資料では、専門職が通常事務を行う基本報酬の目安は月額2万円。管理財産1,000万円超5,000万円以下は月額3万〜4万円、5,000万円超は月額5万〜6万円 | 家庭裁判所が事務内容、管理財産、困難度等を個別に審判。特別な事務には付加報酬の可能性 |
| 任意後見契約 | 日本公証人連合会の2026年7月確認時の案内では、公正証書作成手数料は1契約1万3,000円、収入印紙2,600円、登記嘱託1,600円に正本・謄本、郵送料等を加算 | 受任者数、証書枚数、出張、併せて財産管理等委任契約を作るか |
| 任意後見の継続費用 | 任意後見人の報酬は契約で定め、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が本人の財産から支払う額を決定 | 契約内容、事務量、本人の財産、監督事務の内容 |
| 家族信託の初期費用 | 専門家の設計・契約書作成、公正証書化する場合の手数料、不動産登記、登録免許税、税務確認などを個別見積もり | 信託財産の種類・評価額、受益者と承継の設計、不動産数、融資、登記、公正証書、専門家の業務範囲 |
| 家族信託の継続費用 | 受託者報酬、信託口口座等の費用、会計・税務申告、専門家の監督・支援を置く場合の費用 | 契約で報酬を定めるか、収益不動産、受益者数、申告、監督体制 |
横浜家庭裁判所の報酬額は、同裁判所が示す専門職後見人等の目安です。法律で決まった料金でも、家族全員にそのまま適用される額でもありません。親族後見人でも、報酬付与を申し立て、家庭裁判所が認めれば本人の財産から報酬を受ける場合があります。
家族信託の専門家費用には、公的な一律料金や全国共通の幅がありません。「家族信託一式」ではなく、現状分析、契約設計、契約書、公正証書、登記、税務、信託口口座、開始後の支援を分けた書面見積もりを取ります。信託財産の評価額だけに連動する報酬なら、業務範囲も確認します。
法定後見で多額の金銭を管理する場合、家庭裁判所から「後見制度支援信託」や「後見制度支援預貯金」の利用を検討するよう求められることがあります。これは家族信託とは別の仕組みです。
後見制度支援信託では、日常的な支払いに必要な金銭を後見人が管理し、通常使わない金銭を信託銀行等へ信託します。支援預貯金では、通常使わない金銭を取扱金融機関の専用口座へ預けます。払戻しや解約には原則として家庭裁判所の指示書が必要です。専門職の関与報酬や、金融機関によって管理報酬・口座開設手数料が生じる場合があります。
これらは利用が一律に義務付けられるものではありません。利用しない場合、財産保護のため家庭裁判所が監督人を選任することがあります。対象となる類型や取扱金融機関には差があるため、担当の家庭裁判所へ確認します。
行き詰まったときの相談先と最終確認
家族信託と成年後見は、契約の有効性、本人の権利、税金、家族間の利害に関わります。制度名を決めてから窓口を探すのではなく、親の状態と実現したいことを持って相談します。
| 相談先 | 相談する内容 | 先に伝えること |
|---|---|---|
| 市区町村の中核機関・権利擁護センター | 法定後見の必要性、地域の相談先、申立支援、後見人候補の検討 | 親の住所、判断・生活状況、困っている契約、親族、緊急性 |
| 地域包括支援センター・社会福祉協議会 | 生活状況の把握、医療・介護との連携、本人情報シート、権利擁護支援 | 介護認定、支援者、金銭管理、虐待・消費者被害の心配 |
| 家庭裁判所 | 法定後見・任意後見監督人選任の手続案内、必要書類・費用 | 本人の住所、検討する申立て、診断書、申立人との関係 |
| 公証役場 | 任意後見契約、公正証書、必要書類と公証費用 | 本人の希望、任意後見受任者、任せたい事務、判断能力の状況 |
| 弁護士・司法書士 | 家族信託の設計、後見申立て、家族間の利害、契約・登記 | 財産一覧、家族関係、本人の希望、管理・売却・承継の目的 |
| 税理士 | 信託設定中・受益権移転・終了時の税務、譲渡・相続 | 財産評価、委託者・受益者、収益、将来の承継案 |
厚生労働省の案内では、中核機関、地域包括支援センター、社会福祉協議会、専門職団体などで、制度利用の手続きや必要書類、後見人候補について事前相談できるとしています。中核機関は地域の権利擁護支援を調整する窓口で、自治体により名称や設置形態が違います。
申立費用や後見人等報酬の負担が難しい場合は、市区町村の「成年後見制度利用支援事業」を確認します。たとえば京都市の制度は、資産・所得等の要件により申立費用や家庭裁判所が審判した報酬を支給します。対象要件、親族後見人の扱い、上限、申請期限は自治体ごとに異なるため、京都市の条件を他地域へ当てはめず、親の住所地等の担当課へ確認します。
相談前には、親の希望をまとめたメモ、家族関係図、預貯金・不動産・保険・負債の一覧、収支、介護・医療の状況、困っている契約、急ぐ理由をそろえます。最後に、契約時の意思能力、対象財産、身上保護の必要性、取消権、監督方法、初期・継続費用、税務、受託者や後見人が動けない場合まで確認します。一つの制度で全部を解決しようとせず、親の意思と必要な支援を起点に専門家と組み立てます。
よくある疑問
よくある質問
認知症と診断された後でも家族信託を契約できますか?
診断名だけで一律には決まりません。親が信託する財産、受託者の権限、利益を受ける人、終了条件などを理解し、自分の意思で契約できるかが問題です。理解できる意思能力を欠く場合は新たな家族信託契約はできないため、法定後見を含めて弁護士・司法書士等へ早めに相談します。
家族信託をすれば成年後見は不要になりますか?
家族信託が扱えるのは契約で信託した財産です。介護施設の入所契約などの身上保護、信託していない財産の代理、本人がした契約の取消しはカバーできません。必要な支援に応じて任意後見との併用や、後から法定後見が必要になる可能性を専門家と確認します。
法定後見では家族を後見人に指定できますか?
申立書に候補者を記載できますが、家庭裁判所は本人の財産、必要な支援、候補者との関係などから選任します。候補者が選ばれるとは限らず、専門職や法人、複数の後見人、監督人が選任される場合があります。
成年後見人への報酬を払えないときはどうしますか?
自治体によっては成年後見制度利用支援事業で申立費用や後見人等報酬を助成しています。対象者、資産・所得要件、対象となる申立て、上限、申請期限は自治体ごとに異なるため、市区町村の担当課や中核機関へ申立て前に確認します。
関連情報・信頼性
出典・参考資料
- 法務省「Q3~Q15 法定後見制度について」(2026年7月26日確認)
- 法務省「Q16~Q20 任意後見制度について」(2026年7月26日確認)
- 法務省「Q21~Q25 制度の利用について」(2026年7月26日確認)
- 裁判所「後見開始」(2026年7月26日確認)
- 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(2026年7月26日確認)
- 横浜家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす(令和7年4月1日)」(2026年7月26日確認)
- 日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成する費用」(2026年7月26日確認)
- 信託協会「信託の仕組み」(2026年7月26日確認)
- 金融庁「高齢社会における金融サービスのあり方(資料1)」(2026年7月26日確認)
- 厚生労働省「成年後見はやわかり ご本人・家族・地域のみなさまへ」(2026年7月26日確認)
- 京都市「成年後見制度利用支援事業(申立費用・報酬支給)」(2026年7月26日確認)


